殺人鬼と宇宙人とうさぎ。

ジェニィ(ポール・ギャリコ著)

ジェニィ (新潮文庫)
ジェニィ (新潮文庫)
mobileジェニィ (新潮文庫)

突然真っ白な猫になってしまったピーター少年は、大好きなばあやに、冷たい雨のそぼ降るロンドンの町へ放り出された。無情な人間たちに追われ、意地悪なボス猫にいじめられ――でも、やさしい雌猫ジェニィとめぐり会って、二匹の猫は恋と冒険の旅に出発した。


日本には三途の川の言い伝えがありますね。
そういったことを踏まえた上で本作を考えると、ピーターが海を渡って見知らぬ土地に降り立つも、また元の地に戻ってくるというストーリーは興味深いものがあります(とはいえ西洋では多くは川ではなく門らしいですけど)。

一番最初に内容じゃない部分に触れるのはどうかと、自分でも思うんですけど、でもこれから読む人に一番注意を促さなくてはならないのは内容ではなく翻訳だと思うので、あえて。

文体が実に読みづらい!です。ここまでつっかえる文章を読んだのは久しぶり。
全体的に古めかしい言い回しだからでしょうか。
ピーターのしゃべり方も、とても八歳の子供とは思えないのです。 実際、訳された時代が古い(1979年)ので仕方ないとはいえ、コレは…。
「すまなかったね」「~だったと思うんだが」「残念でたまらんよ」「話してくれたまえ」ってお前どこのオッサンや。

ジェニィもジェニィでわけわからんことになってるし。

しかしその雌猫は優しくピーターのことばをさえぎって言った、「お黙りなさい!(後略)」

優し、く……?


ほかにもいくつか引用を。

(前略)父も母も来ていない。そんなことにピーターは驚きはしなかった。父は陸軍の大佐である。母はいつもせわしなくおしゃれしながら、ぼくをばあやに任せっぱなしにして、外出しないではいられないたちだからである。


ピーターはどうも自分が事故にあって、ひどい怪我をしたのにちがいないと思った。スコットランド生まれのばあやのそばにいたら、大丈夫だったのだけれど、広場の公園の柵のそばで、かわいらしい子猫が初春の日差しを浴びながら身づくろいしていたので、道路を渡ってその公園までかけていこうと、ばあやのそばからぱッと飛び出してしまってからのことは、あまりよく覚えていない。


ピーターはこれまで、騒がしい物音など怖がったことは一度もなかった。(中略)ピーターは、音というものが現在の自分にとって、全然違った意味を持っているということを知る暇など、それまでまったくなかったわけである。


ピーターが気づいたことは、その雌猫はとても痩せていて、本当に骨と皮ばかりと言っていいくらいなのだが、彼女に似合わぬこともないその骨ばっているという、そのこと自体の中に、一種の優しくていきな、雄々しさといったようなものがあることである。

日本語でおk。
ことことことこと煮込みすぎ。


すでにおわかりと思いますが一文のセンテンスが長過ぎるのです。朗読してみたらいい肺活量増加訓練になることでしょう。
とにもかくにも、「○○は××で△△だった。なぜなら●●は□□だからで……うんたらかんたら」こういった説明口調が延々ほど続く。


ファンタジーというものは、いかにして読者をその世界に抱き込むかが重要になってきます。
物語の始まりから終わりまで、突飛な設定に疑問を抱かせずにいる手腕が著者には求められます。
この翻訳のように一人称と三人称を混濁したり(原文からしてそうなっているのかもしれませんが)、不安定なグネグネした文体で読者を現実に突き戻すようではいけないのでは、と思う。
特に前半は描写よりも説明に重きが置かれているためか、ファンタジーを読むというより小難しい授業を受けているような気さえした。

この難点に目をつぶってまで読む価値があるかどうか。それは人次第です。
でももしあなたが猫が好きで、それもとってもとっても好きで、一度でいいから猫の世界を覗いてみたいと思っているとしたら、価値はある、と言い切ります。

誰か(人間だけではなくもちろん猫も含むよ!)を愛すること、探すこと、信じること、思いやること、求めること、心を通じ合わせること。
言葉にすれば簡単だけど出来ない人の方が遥かに多いこの感情の流露を、ギャリコは猫の目を通じて見事に描ききっているからです。

人間でさえ得難い複雑な感情のすべてを二匹の猫がしっかりと掴みとっていることに違和感を覚えないのは、いや、むしろ彼らが猫だから?
人間に捨てられた過去から人間不信に陥ったジェニィにピーターが「人間にもいい人はいるんだよ」と諭すくだりや、最初はジェニィに守られてばかりのピーターが自分の命をなげうってでもジェニィを助けようとするくだり、そして彼女のために恐怖に立ち向かおうとするシーンには胸を打たれた。


一方で、ふと我に返ったとき、なんと男性に都合のいい本だろうかと呆れもした。
だってそうでしょう? ジェニィって、まさしく世の男性が求めてやまない素晴らしく都合のいい女性像なんだもの。

どこまでも一途で、一人の男だけに尽くし、男のためなら自分の一番大切なものさえ捨て去って、それでいて男の浮気は不問に処す。
完璧な器量よしではないけど愛嬌があって優しくて明敏で賢くて夫を立てるのが上手くて、そして男の都合によって、最終的には夢のように霧散していなくなってくれる女性。


……いやいや、さすがに詰め込みすぎだから。夢見すぎだから。
猫好きなギャリコが、1匹の雌猫に永遠の女性の姿を託して…ってあるけどこれが本気の理想だとしたら相当…

この尽くしすぎるという部分が、私の中の猫様像と噛み合わなくて歯がゆい。

ラストもジェニィ視点で見るとあまりに救いがなくて、なんだか悲しくなってしまった。そうね、確かにピーターは成長できたかもしれないけどね。
いやー、荒んでるうえに性格の悪さが露呈してますねー。この話を素直に『幸せなお話』として受け入れるには、私の心にはちょっと隙間が足りないようだ。
ギャリコ氏の猫に対する優しいまなざしが伝わってくるようなお話であることに違いはないんだけど。
と、いうことで、心の汚れていない人におすすめしたい大人の童話でした。

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