7月 21 2013

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路肩でひなたぼっこをしていたキジトラ猫が流暢な言葉で話し掛けてくるという非現実をどう受け止めるべきかわからず、彼は口をぽかんと開いたまぬけ面のまま意味もなく辺りを見回した。


とある灰色の午後、薄暗い窓辺に腰掛けたその男は落ちつかなげに生あくびを繰り返しつつ、さてこれは困ったことになったぞと考えていた。

その日訪れた朝はあまりにも穏やかで、目の前に広がる惨状さえなければ昨晩の狂騒は悪い夢かなにかだと思えただろう。

全員が固唾をのんで見守る中、闇よりも濃密な闇が、ぬらりとうごめく。その正体にいち早く気がついたのはAだった。

その夏の日、空は青く、木々は濃く茂り、生き急ぐ蝉が大きな声で鳴いていた。

潮を含んでべたつく風が東から吹き付けて、埠頭の端に佇む彼女の長い髪をもてあそぶ。

私は彼女が傾斜のきついブーツの踵を颯爽と鳴らして歩く姿が好きだった。

目覚めた瞬間に理解した。——ここは夢の中だ。

息が詰まるほどの熱気を立ち上らせるコンクリートの坂を、きみと歩いた夏のこと。

所在無く壁に視線を逃がす私の見ている前で、赤い時計の秒針が長針を追い越した。

私はつい一分前に彼女の唇から放たれた言葉に多少の安堵を見いだしていた。

冷え冷えとしたコンクリートの地面で雨が弾けた。

夜空は瞼の裏側よりも暗く、静謐で、その中に大きく誇らしげに浮かんだ満月が庭に青白い光を投げかけている。
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